
竹野内豊が7年ぶりにスクリーンに戻ってきたのは、「今だからこそ、作るべきだ」と思える本作との出会いだった。殺伐とした事件が続発する現代で、人が生きていくうえでの原点である家族と、人を思う気持ちを描きながら、愛と生、幸福という、シンプルでありながら、最も深遠なテーマに迫った感動作、それが『あの空をおぼえてる』だ。 舞台はとある地方都市。親子4人と愛犬の幸せな暮らしが突然ふりかかった不幸をきっかけに一変し、大きな悲しみに沈んだある家族の物語が始まる。自責の念に苛まれる父と、悲しみにくれながらも新しく生まれてくる命を守る母。そして、両親の笑顔を取り戻したい、と小さな胸を痛めながら、健気にふるまう息子。絶望に打ちひしがれていた彼らはゆっくりと再生へと向かい、絆を深めながら懸命に生きていく。 原作はジャネット・リー・ケアリー(「あの空をおぼえてる」/浅尾敦則訳・ポプラ社刊)。少年が妹に宛てた手紙の形式で綴られた本作は、03年に日本で翻訳が出版されて以来、珠玉の名作として読みつがれている。 監督は冨樫森。長編デビュー作『非・バランス』(01)、続く『ごめん』(02)といった作品で少女や少年を主人公に据え、その瑞々しい成長や思春期特有のきらめきを見事にとらえる演出には定評があり、竹内結子主演の『星に願いを。』(03)、市原隼人主演の『天使の卵』(06)といった恋愛映画でも登場人物の切なさを繊細に表現した俊英による家族の肖像は、登場人物の誰かに必ず共感できるものであり、人が生きていく勇気と希望が鮮やかに描かれている。 写真館を営む一方で、日々成長する子供たちを愛情あふれる視線でカメラに収め続ける父親、深沢雅仁を演じるのは竹野内豊。「こういう人間ドラマ、家族の物語があってもいいんじゃないか。こういう時代だからこそ、やりたい」と脚本を読んで強く思ったという。彼にとって、01年の『冷静と情熱のあいだ』以来、7年ぶり2本目となる待望の主演作。幸せすぎる日々から娘を亡くすという悲劇に直面する父親役に挑戦。子供たちとはしゃぐシーンでは、これまでに見せたこともないような快活な表情になり、喪失感に打ちのめされた父親の苦悩を胸に迫る演技で見せる。彼にとってターニング・ポイントとなる作品だろう。 太陽のように明るく家族を包み込む母親、慶子には『踊る大捜査線』(99)などを経て、07年11月に自ら旗揚げ公演を行うなど、舞台にも活躍の場を広げている水野美紀。悲しみを経験しても、それでも生きていくんだ、と涙を隠して一歩ずつ歩を進めていく母親の強さを見事に演じている。絶望の淵にいる家族を何とか明るくさせたいと願う、父によく似た優しい心の持ち主である息子、英治には『涙そうそう』(06)、『マリと子犬物語』(07)で涙を誘った名演技が記憶に新しい広田亮平。暗く沈んだ食卓の空気を明るくしようと、無理に笑顔を作る少年の瞳に悲しみが影を落としている。そんな微妙な心の襞を10歳にして演じることの出来る天才だ。家族の中でいきいきと輝く存在の妹、絵里奈はオーディション終了直前に奇跡のように現れた「天使の笑顔」を持つ吉田里琴が演じる。愛される喜びを全身で享受し、くるくる変わる表情が愛らしい。誰にも言えない悲しみを抱えた英治の心を開くスクールカウンセラーには、『非・バランス』で強い印象を残し、『それでもボクはやってない』(06)、『HERO』(06)などでも活躍する名バイプレイヤー、小日向文世。さらに、英治の担任のユリコ先生に小池栄子、雅仁の親友、勇雄に品川祐、慶子の同僚、玲奈に中嶋朋子、他に高見のっぽ、徳井優、と多彩な顔ぶれが揃った。 製作は、1985年の『それから』をはじめ、『学校の怪談』シリーズ(95.96.97.99)、日本アカデミー賞最優秀賞の主要8部門を独占し、モントリオール国映画祭国際批評家連盟賞をはじめとする国内外の映画賞に輝いた『愛を乞うひと』(98)、『OUT』(02)などを企画・製作したサンダンス・カンパニーの古澤寿斗と木村典代。製作総指揮はソニー・ミュージックエンタテインメント代表取締役の北川直樹。プロデューサーは『さくらん』(07)『未来予想図~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~』(07)の藤田義則。 脚本は『ごめん』『鉄人28号』(04/斉藤ひろしと共同脚本)で冨樫監督と組み、『マリと子犬の物語』などを手がける山田耕大。撮影は『天使の卵』で、優れた撮影技術を示した新人カメラマンに贈られる三浦賞に輝いた中澤正行。同作に続いて照明の木村匡博とコンビを組み、市川崑監督の『おとうと』で初めて実用化され、その後スピルバーグの作品などにも取り入れられた銀残しの手法を効果的に用いて詩情あふれる映像を作り上げた。美術は『愛を乞うひと』で日本アカデミー賞最優秀美術賞を受賞し、『やじきた道中 てれすこ』(07)などを手がける中澤克巳。録音には、相米慎二監督のスタッフ同士として出会った冨樫監督と『星に願いを。』『鉄人28号』で組んだ野中英敏、編集は『未来予想図~ア・イ・シ・テ・ルのサイン~』の森下博昭があたり、日本映画界で活躍する若手とベテランが一堂に会する布陣。 劇中、雅仁が撮ったという設定の家族写真は、天才アラーキーこと荒木経惟が絶賛する気鋭のフォトグラファー、大橋仁が担当。劇中画は、第19回ブラティスヴァ国際絵本原画展で「あめふらし」がグランプリに輝いた、プラハ在住の出久根育。VFXとタイトル・バックは『鉄人28号』やHONDAのCM、NHKの立体アニメーションを手がける寺嶋章之が担当。 撮影は豊かな自然に恵まれた岐阜県のロケを中心に約6週間行われた。実在するアメリカン・ハウスが深沢家の舞台となり、緑豊かな日本の田園風景との不思議な調和を醸し出している。 たとえ愛する人がこの世から去ったとしても、その人を思う気持ちがあれば、それは別れではない。喪失の重みに打ちのめされた家族を見守るように寄り添い、共に生きていく勇気と希望をさわやかな感動とともに伝える、心暖まる傑作がここに誕生した。
とある地方に、幸せに暮らす4人の家族がいる。写真館を営む父・深沢雅仁とリトミック教室で働く母・慶子。ちょっとシャイで心優しい小学4年生の長男・英治。元気いっぱいの幼稚園児の長女・絵里奈、いたずら好きなゴールデン・レトリーバーの金之助もそこに加わる。 彼らが住むのは、雅仁が建てたアメリカン・ハウス。美しい田園風景にとけこみ、木のぬくもりを感じる家の中には、父が撮った家族の写真が飾られ、庭には子供たちの秘密基地であるツリーハウスがあり、兄妹はここで元気よく遊んでいる。男の子顔負けのお転婆ぶりを発揮する絵里奈は、英治や彼の同級生たちも怖がる川沿いの真っ暗なトンネルへも平気で入って行く女の子。英治はそんな妹をハラハラしながら見守る、優しい兄だ。 慶子のお腹の中には新しい生命が宿っていて、家族みんなが赤ちゃんの誕生を心待ちにしている。そんな毎日が楽しく、笑い声の絶えなかった深沢家に突然思いもよらない不幸が襲いかかった。2人で買い物に出かけた兄妹が交通事故に遭い、英治は生死の境をさまよう重傷を負ってしまったのだ。 子供たちだけで外出させてしまった自分を責める雅仁。事故以来、泣き続けている慶子。病室で暗く沈んだ表情の両親に英治は心を痛める。やがて退院の日が訪れ、迎えに来た雅仁に、英治は事故直後に体験した不思議な光景について話そうとするが、どうしても言葉にできない。そんな息子を、雅仁は「いいんだ」と優しくいたわった。 久しぶりに帰った家の様子は一変していた。悲嘆に暮れる両親を何とか励まそうと、英治は無理に明るくふるまうが、家族の間には重苦しい空気が流れるばかり。笑顔の消えた家の中で英治自身も深い喪失感を味わう。 家庭の沈んだ空気を忘れさせてくれるのは学校だった。英治を温かく迎えた担任のユリコ先生は授業でギリシヤ神話のオルフェウスの物語を取り上げる。死んだ妻の後を追って真っ暗なトンネルを進み、冥界の王に妻を返してほしいと訴えるオルフェウスの物語を複雑な心境で聞いていた英治は「奥さんじゃなくて、オルフェウスが死ねばよかったんだよ」と涙ぐみながら教室を飛び出した。ひとりぼっちで校庭にたたずむ英治に声をかけたのはスクールカウンセラーの福田だった。 やがて英治は、学校の男の子たちの間で幽霊がいると噂の「死のトンネル」と呼ばれる川沿いのトンネルへの冒険を親友の尚人と二人で企てる。金之助も連れてトンネルに入った二人は、闇の中で地獄の番犬ケルベロスを思わせる恐ろしい唸り声を聞いて、一目散に逃げ出すのだった。 数日後、福田に背負われて、英治は久しぶりにツリーハウスに上った。夕焼けが広がる空を見ながら、事故直後に光に包まれて空を飛んだこと、目の前のずっと向うにもっと眩しい光があって、そこに絵里奈がいたことを話し始める英治。「お父さんやお母さんに、その話はしたのか」と聞く福田に「話すと、言いたくないことまで言わなくちゃいけなくなるんだ」と、英治は涙ぐむのだった。 健気な英治の姿を見続けていた慶子も、少しずつ前を向き始める。リトミック教室でも明るい表情を見せるようになり、生まれてくる子のために絵里奈の部屋を片づけ始める彼女を英治も手伝う。おもちゃ箱をひっくり返したような部屋で、思い出のつまった品々を懐かしく眺める母と息子の目にはもう涙はなく、たとえそこに姿は見えなくても、絵里奈と一緒に新しい家族を迎える気持ちになっていた。しかし、雅仁はそんな二人の行動が理解できず、慶子と激しい口論になり、慶子は家を飛び出す。翌日、ユリコ先生から、英治が学校を欠席していると連絡を受けた雅仁は英治の部屋に入り、そこで手紙の束を見つける。ノートの切れ端に綴られた手紙を読む雅仁の傍らには、家に戻った慶子の姿があった。 雅仁は行方のわからなくなった英治を探すために、夕闇の迫る山へと向うが……。
監督:冨樫森 原作:ジャネット・リー・ケアリー「あの空をおぼえてる」 脚本:山田耕大 製作:古澤寿斗、木村典代 製作総指揮:北川直樹 撮影:中澤正行 照明:木村匡博 美術:中澤克巳 録音:野中英敏 編集:森下博昭 音楽:中野雄太 出演:竹野内豊、水野美紀、広田亮平、吉田里琴、小池栄子、中嶋朋子、品川祐、小日向文世 企画・製作:ソニー・ミュージックエンタテインメント / サンダンス・カンパニー 提携作品 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント <受賞リスト/2008年度> ■KINOTAYO(Festival du cinema japonais contemporain de Paris) 金の太陽・新人監督賞(富樫森) 受賞
