
誰もが待ち望む夢と希望に溢れた最高の季節〈夏休み〉-その言葉がもつ輝きは、あの永遠を思わせる青空と生命力そのもののような真っ白い入道雲に重なります。そして、どこまでも澄み切った空の青さと、なにものにも束縛されず自由奔放に成長する純白の雲海は、まさに伸びざかりの青春そのものの象徴といえるでしょう。この映画は、誰もが子供の頃の最も幸せな記憶として持っているあの“幼い緑の天国”のようなまぶしい永遠の夏休みを手に入れたひとりの少女の物語です。 成績優秀と母親が自慢していた娘は毎日せっせと登校拒否、エリート・サラリーマンの義父は出社拒否、あげくのはてに母親はクラブのホステス勤めを始めてしまうという一見すると現代の家族がいつ遭遇するかもしれないマイナスの状況を集約したような状態になってしまったのがヒロインの林海寺スギナの一家です。確かに現実に目をむけて私たちの日常を見回してみても、これと似たような状態の家族は少なくありません。 林海寺家は親が再婚同士の、いってみればスクラップ家族ですが、この危機的状況を克服しようと、父親の発案でユニークな試みを始めます。それは父親が社長、スギナが副社長、母親が監査役という“何でも屋”林海寺社を設立することだったのです。当然、そこには近所の陰口と母親の大反対が待ち構えていました。しかし、そうした中でスギナと義父は、かえって運命共同体としての心の絆を強くしていきます……。こうして、スギナは学校では決して得ることのできない、夏休みそのもののような自由とよろこびを獲得することになるのです。 日々の生活、仕事や勉強に追われている私たちの日常も、ひとつ見方を変えれば、まったく遣って見えてくるものです。例えば、窮屈な見栄など張らずに、「そんなに悪い世の中じゃないよ」とひと言つぶやいてみれば、回りの景色が変わって見えてくるかもしれません。カラー写真のネガをポジに変換させると鮮やかな色彩が立ち現れてくるように、この作品はそうした現実と背中あわせの世界を、現代の家族を巡る類い希なファンタジーとして描き出します。 『綿の国星』『四月怪談』等の独自の世界を生んで少女漫画を文学のレベルに引き上げた第一人者と言われる大島弓子の作品群の中でもカルトとして熱狂的ファンを持つ同名コミックを原作に、映画化を熱望した『1999年の夏休み』『どっちにするの。』の金子修介が脚本・監督。そして撮影・柴崎幸三、照明・吉角荘介の『ザ・中学教師』のコンビに美術は『就職戦線異状なし』の及川一、緑青も同作の林大輔、編集冨田功、また音楽大谷幸、主題歌は鈴木トオルという若手実力派が勢揃いしました。企画は85年の『それから』で数々の賞に輝き、『快盗ルビイ』『どっちにするの。』と日本映画で常に新しい挑戦を続けるサンダンス・カンパニー。また製作は『それから』『快盗ルビイ』『おいしい結婚』の藤峰貞利。製作総指揮は青木雅美。 キャストは父親の林海寺成雪に、『ずっとあなたが好きだった』『誰にも言えない』の佐野史郎。テレビドラマでの特異なキャラククーで人気沸騰ですが、『ゲンセンカン主人』ほか映画世界ではひと味もふた味も違う演技を披露し、この作品でもまた全く新たな人物像を生み出すことに成功しました。さらに母親役の良子には『無能の人』で数々の賞を獲得した風吹ジュン。大島弓子独特の母親像が、この実力派によってより可愛らしく、かつ人間味豊かに演じられました。また成雪の元・妻の紅子には『夜逃げ屋本舗』の高橋ひとみ。テレビのファッショナブルなドラマに欠かせない彼女が、林海寺家に微妙な陰を投げかける役柄を繊細に演じました。ほか小野寺昭、益岡徹、黒田福美、CFのNOVAおばさんの林キセ子ら個性派が共演。 そして、このドラマの主人公であり語り部となった14歳のヒロインのスギナには新人の佐伯日菜子が抜擢され、鮮やかなデビューを飾りました。少女の誰もが経験するイニシエーションを、最高の形で体験したヒロインのスギナ。そのスギナというキャラクターが持つ率直さや明るさと、佐伯日葉子が生来持っているナイーブな清潔感、原石の持つ底知れない輝きがぴったりと重なり合い、絶えて久しくなかった映画から生まれた大型新人の誕生を約束しています。 夏休みの砂浜に寝転んで空を見ていると、いつしか永遠のヒーローやヒロインになってしまったという想い出を、誰でも持っていると思いますそしてスクリーンは、その砂浜と地続きなのです。そう、映画を見ることば夢見ることと同じなのです。ひととき現実と違った世界で生きてみること――この映画は、そのような観客ひとりひとりに、夢見る力と素晴らしい歓びを与えてくれる、第一級のエンターテインメント作品です。
私の名は林海寺スギナ。中学2年生、14歳です。母親も義父も再婚同士なので、言ってみればわたしたちはスクラップ家族というわけです。そして、わたしたちの住む家は東京郊外の新興住宅地にありますが、ここは住み心地が良いのか引っ越しする人もなく、ほとんど村化しているのです。 その“村”で評判の女子大付属中学の優等生が私です。明るい性格のため友達にも好かれていると母親が近所で自慢のたねにしているのですが、実は同級生のいじめに嫌気がさして、毎日登校拒否を続けていたのです。それだけではなく、成績表も自分の手で作りあげるという公文書偽造まで手掛けていたのです。 ところが……いつものように「今日も元気に登校拒否だ!」と家を出た、初夏の陽もうららかなウィーク・デイのある日、公園でお弁当を食べたあと、のんびりと読書をしていると、何と義父とバッタリ顔合わせ。「おっ、お義父さん」「何だ、スギナか」と、なんとも間の抜けた挨拶をかわした後、よくよく聞いてみると、一流企業に勤めていたはずのお義父さんも、出社拒否をしていたことがわかったのです。夫の失業と娘の登校拒否という事実を一挙に知ったお母さんは、世間に合わせる顔がないと嘆きのセレナーデ。考えてみればあたりまえです、天地がひっくり返るようなことを、同時に二つも聞かされてしまったのですから。 そんなお母さんの心配をよそに、その日から娘の教育に目覚めたお義父さんは、いつも一緒にいて目をくばれるという理由から自宅で「何でも屋・林海寺社」を開業すると決意してしまったのです。私はなんだか楽しそうなことになりそうだとワクワク。勿論、お母さんは大反対。にもかかわらず、お義父さんは「自分は社長で、スギナは副社長、お母さんは監査役」ときめてしまい、「何でも屋・林海寺社」は営業をスタートすることになりました。炊事、洗濯、掃除、買い物など家庭のこまごまとした仕事全般の代行はもとより、散歩のお供、心寂しい人々の話し相手にもなる何でも屋は、たちまち“村”周辺で評判となり、次々と仕事が舞い込みました。しかし、お母さんは、近所の噂にたまりかね、赤坂の高級クラブのホステスさんになってしまいました。そうしたなかで、私はお義父さんの前の奥さんの紅子さんと知り合いとなり、お友達のような関係にもなることができました。 依頼される多くの仕事を一生懸命こなしながら、やがて、運命共同体として目覚めたお義父さんと私は、多くの人生の学習をすることができました。さらに、私はお義父さんから学校では得られない素晴らしい個人授業を受け、忙しいながらも心弾むような充実した毎日をすごすことになったのです。 こうした家族の大きな変化の中で、やがてお母さんもわたしたちのことを少しずつ理解してくれるようになりました。ところが、ひと安心したのもつかの間、私にとっては予想もできないような出来事が、次から次に起こることになったのです……。
監督・脚本:金子修介 原作:大島弓子 製作:藤峰貞利(古澤利夫) 共同プロデューサー:木村典代 出演:佐野史郎、佐伯日菜子、吹風ジュン、高橋ひとみ 企画:サンダンス・カンパニー 配給:KUZUIエンタープライズ <受賞リスト/1994年度> ■山路ふみ子賞 新人女優賞(佐伯日菜子) ■日本アカデミー賞 新人賞(佐伯日菜子) ■ヨコハマ映画祭 新人賞(佐伯日菜子) ■撮影監督協会 三浦賞(柴崎幸三) ■キネマ旬報賞 読者選出日本映画ベスト・テン第7位・日本映画ベスト・テン第10位 受賞
