
ダマしあうのも愛のあかし……身分も考え方もまるで違う若いカップルの恋物語に腕自慢のコン・マン達がからみつき、とほうもないラブ・ゲームに発展してゆく、日本映画初のコン・ゲーム(信用詐欺)映画が誕生する。 詐欺といってもいろいろなバリエーションがあるのだが、コン・ゲームとはConfidence Gameの略で、詐欺テクニックの中でも最高度レベルの信用詐欺のことであって、被害者(カモ)を巧みな手段で信用させ、大金を投資させて、それを戴いてしまうが、なお被害者を幸せと感じさせたままでおく……悪の匂いを放たない、芸術的な詐欺というものである。 そして最高レベルの詐欺というだけあってカモに向っての仕掛けの〈お膳立て〉は周到を極め、巧みな〈おいしい話〉がバラまかれ、綿密な〈罠〉をめぐらした上で〈とどめの一発〉が放たれる手のこんだ段取りと強固なチームワークを必要とするものであるが、この映画では観客に向けても〈とどめの二発、三発〉を用意しているものだ。 原作は「唐獅子シリーズ」や「オヨヨ大統領シリーズ」で人気を博し、最近作「ぼくたちの好きな戦争」でベストセラーを生み、また朝日新開夕刊で連載中の「極東セレナーデ」も絶好調の若者に人気のある小林信彦の同名小説。そのソフィスティケートされた機知とユーモアの原作エッセンスを「俺っちのウエディング」「ユー・ガツタ・チャンス」の実力派ライター・丸山昇一がさらにエスカレーションさせて、どんでん返し、仕掛けが相次ぐドラマを生み出した。 コン・マンの神様に資質を認められ、そのチームのヒロイン・悦子になるのは大ヒット作『野蛮人のように』以来、1年ぶりのスクリーンとなるスーパー・アイドル薬師丸ひろ子。前作とはうって変った人間模様、シチュエーション・コメディの中に身をさらし、美と機知に富んだ大人っぽい魅力でコン・マン達と丁々発止のやりとりをくり拡げるキャラクターとあって、高い評価を受けた『Wの悲劇』以上の演技力表出が期待される。 “本格的なシチュエーンヨン・コメディ練初めてで自分でどれくらい喜劇的な演技が出来るか分からず、怖い面もあるのですが、普段の私は他人から見るとソソっかしくコミカルらしいので、それを頼りに、と考えています。ダマされた人が気持ち良くなるぐらいが詐欺の真髄の設定は面白いと思ってます……。私自身はダマされっぱなしのタイプなのですが〟と薬師丸は意欲的に語る。 また資産家の御曹子・民夫役には『俺っちのウェディング』や『海燕ジョーの奇跡』等の青春映画を生み、また「ライスカレー」等のTVドラマで若い女性に人気の高い時任三郎が扮する。薬師丸とは違ったフィールドで人気と個性を磨いてきた時任が、ナイーブであり、ピカロ(悪漢)という複雑なキャラクターに挑むわけで、若いコンビの迫力ある演技のぶつかりあいが大いに楽しみだ。 このカップルの間に割って入る豊川淳役には目下、「ビー・バップ・ハイスクール」シリーズで人気急上昇中の仲村トオルが配された。日本映画界ひさびさの大型スターの素質充分といわれる仲村が、「ビー・バップ~」を離れて初の難役に挑戦するもので、その新鮮さも楽しみ。 さらにこの若いヒーロー、ヒロインを助け、翻弄し、人生の厳しさを見せるコン・マンの神様にはベテランの小林桂樹が扮し、これと張りあうプロフェッショナル・コン・マンには伊武雅刀、三宅裕司、小倉久寛、石橋蓮司、さらに財津一郎、夏樹陽子、尾藤イサオら、したたかなキャリアとアクの強い個性派が多彩に揃って、スケールを出している。 監督はロマン・ポルノの『セーラー服百合族』で名を高め、「ビー・バップ・ハイスクール」シリーズで一躍ヒットメーカーとなった那須博之。その持ち前の明るいリズム感とパワフルな演出が傑作シナリオと豪華で達者なキャストを得てどんなエンターテインメント作に仕立てあげるのか。“これまでの映画ではみられなかった薬師丸のコミカルな味を引き出しつつ、エネルギッシュに観客の意表をつく映画にしたい”と気合充分である。 他のスタッフも、音楽は傑作『それから』で85年度のあらゆる映画賞の音楽部門を総ナメにした梅林茂が起用され、撮影を「ビー・バップ・ハイスクール」シリーズの森勝、美術には『それから』『キャバレー』の今村力が担当と、実力派、ベテランが揃って大型企画にふさわしい布陣が組まれた。 まさに87年正月映画を飾るにふさわしいスタッフ、キャストが集まり、ビッグ・イベントたるエンターテインメント・ムービーが生まれようとしている。
ヒロインの名は樹里野悦子、22歳。目下、大学4年生のジャーナリスト志望の、明るくキュートな娘であるが、無類のお人好しとあって、ちょくちょく詐欺の被害にみまわれてしまう。 ついこの半年の間にも、友人達と出かけようとした海外旅行の詐欺、出版社の就職試験の詐欺とたて続けにダマされ、多額の借金を抱え、友人達にはキッパリと見放されてオチこんでしまっていた。 “私って、悪い人達のカモになりやすいタイプなのかしら……”と嘆いているヒマもまるでなく、幾つかの借金返しのバイトをこなす悦子を励ましてくれるのは、バイト先の家具店の主人・高品やカフェバーのオーナー・小田、友人であるフリーのジャーナリスト・平井らであったが、彼等とて、どういう浮世のめぐりあわせの悪さか借金を大量に抱えた人物ばかりだったのである。 類は友を呼ぶものさ……と笑い合っている余裕もまったくなかった。サラ金ほかの追求の手は厳しく、高品の妻は店の金を持ち出して逃げてしまうありさま。窮地に陥った彼等は、ついに平井の手引きによって日本一のコン・マンと謳れる村山老人と会うことになった。 そもそもコン・マンとは何者?――Confidence Man信用詐欺師のことじやない――“コン・ゲームとは詐欺をすることじゃない!?”といやいや同席させられた悦子の胸は騒ぐ。ところが、村山老人はひと目悦子を見るや否や、“キミには他人を夢中にさせ、心地良くさせるサムシングがある。コン・マンとしての資質は充分じゃ!!”と喝破したのである。 “じょうだんじゃないわよ!”と怒る悦子には別の悩みがあった。この半月の間の海外旅行と就職試験詐欺の現場に常にいあわせる執事付きのロールスロイスに乗ったお坊ちゃん・春日民夫のことである。悦子にひと目惚れしてしまったとかで日々つきまとい始めた、大嫌いなタイプの男だったが、妙に憎めないところもあり、心を騒がせるのだ。 借金に追われ、バイト勤めにきゅうきゅうとしている悦子に・男の影はなかった。強いていえば、大学の後輩の豊川淳がなにやかにやと悦子のまわりに出没していたが、さっぱりしたスポーツマン・タイプの彼とは違って、民夫はどこか浮世離れした感じの男だった。 しかし、借金に苦しみ、大学4年生としての就職に悩み、名うてのコン・マンに魅入られたり、ここ最近の自分自身が何が何だか分からなくなりつつあった悦子は、村山らのアイデアに乗って大掛りな誕生パーティーを開き、民夫を招待する破目になる。民夫はまさしく紳士然とふるまって悦子を驚かせた。そして彼は考古学のかなりの権威であることが分かり、しかも田園調布に敷地だけでも20億という土地持ちの御曹子というのだ。でも、何故私のような女に、身分もキャリアも全然違うのに、と悦子の考えは判然としない。 民夫の悦子へのアプローチは段取り良く進んで、ついに彼女は豪邸で民夫の母と会うことになってしまった。そこで唐突に持ち出されるふたりの結婚話。民夫は“お母さん、急に失礼ですよ”ととりなしたのだが、民夫を見直しつつある悦子の胸には“どうもこのお母さんはムシが好かない……”と再び幾つかの疑問符が浮かんできた。病いもあって老い先が短かいものだから民夫の結婚を急ぐ というものであるが、その口の裏から、財産だの、家柄を語り出す民夫の母……。 そんな悦子の気持ちにつけこむように村山老人、平井らの誘惑の声がスベりこむ。“悦ちゃん、お金や家柄なんかをチラつかせて結婚を迫るなんて、きっとロクでもない連中なんだ。そんな連中をちょっとハッピィな気にさせて、そのハッピィになった楽しさの分だけの報酬を少し戴こうじゃないか。この世は不純でなければ生きられないという現実を、芸術的に、知的に、教えてやろうじやないか”“悦ちゃん、もっと大人になれよ。そして大人にならないと、社会人になんかなれやしないぜ……”。そんな悦子を心配気に見守る豊川淳。どうも近頃の悦子のまわりには妙な連中が排御しているのである。そしてどうもオットリしている民夫のキャラクターにも、彼の周りの人物達にもうさん臭い部分が匂ってきた……。 大金持ちの御曹子とコン・マンの神様、さらにプロフェッショナルのコン・マンらとアクティブで魅力的な女子大生、それに関わるひとクセもふたクセもある人々の意表をつくドラマ、どんでん返しに次ぐどんでん返しが明るいテンポとユーモア、パワフルな演出によって展開されてゆく。そしてそれを通して浮かびあがってくる人生の機微の絶妙なる味わい――。
監督:那須博之 製作:藤峰貞利(古澤利夫) プロデューサー:黒澤満、坂上順 原作:小林信彦 脚本:丸山昇一 撮影:森勝 照明:野口素胖 録音:福島信雅 編集:鈴木晄 美術:今村力 音楽:梅林茂 出演:薬師丸ひろ子、小林佳樹、夏樹陽子、内藤剛志、尾藤イサオ、伊武雅刀、仲村トオル、相築彰子、三宅裕司、八木昌子、財津一郎、時任三郎 配給:東映
